作詞:勝井源八 / 作曲:四世杵屋六三郎
大津絵の中の女性を舞踊化したもので、藤の一枝を持った娘の可憐な舞姿は、娘の恋に対する不変の一心理を主題とし、「道成寺」や「汐汲」の舞姿と共に、日本舞踊の代表的な作品とされている。
日本舞踊といったら「藤娘」といわれる位、ポピュラーな作品ですが、今の形になるまでには、色々な行き方があったのだと思います。しかし定着した型には、当然魅力があり、だからこそ繰り返し演じられるのでしょう。
暗転で幕が開き、
若紫に十返りの 花を現す松の藤浪
という鼓唄を聞かせたとろで、ぱっ!と照明が点き(チョンパ・といわれています)待たされた観客は、そこに突然後姿でたっている娘にほ~とため息をつく・・・という効果を狙った演出で始まります。
ですから、振り向いた人物はまず美しくなくてはなりませんね。装置は藤の絡んだ松の大木を中央に、藤の吊り枝が下がっている。この藤の花房はデフォルメされたもので、娘がかついでいる枝もかなり大きなものです。
あたかも藤の精の如く、すらりと美しく舞えばよいのですが、「藤音頭」と呼ばれる踊りを挿入した場合かなり艶っぽい振りが入ってきます。お酒を飲んで、
松にすがるも 好きずき 松にまとうも好きずき
好いて好かれて はなれぬ仲はときわぎの
と一種大らかなエロスをも感じさせます。古典はこうしたことも多く、それをナマっぽくならず、上品に仕上げるところが、難しいところでしょうか・・・
かつらは「元禄土佐絵の島田」。衣裳は、黒地に藤の縫い模様、片肌を脱いだ下着は赤に匹田の着付。帯はとき色地に藤の縫い模様の振り下げ。一度下手に引っ込んで、先の「藤音頭」では藤紫地に藤模様の物に着替えて、振りでいえば、観客に愛想を振り撒きながら、小走りに出てきます。踊り手にとっては、ちょっと美味しいところです。
最後は
空も霞の有照りに 名残を惜しむ帰る雁がね
と花道七三まで行って、決まります。そしてゆったりと
潮来出島のまこものなかに~
という唄で、チョンチョン・・・・・と析頭のきざみにのって揚幕に消えて行きます。